徳永社長が語る、アンサースタジオ誕生ストーリー
日本:新設アンサー・スタジオ、アニメーションの過去と未来を融合させる
VFXWORLDとの独占インタビューで、徳永元嘉氏は旧ウォルト・ディズニー・アニメーション(ジャパン)の閉鎖を受け、独立系の「アンサー・スタジオ」を設立した経緯について話してくれた。 記者 ビル・デソウィッツ(Bill Desowitz)
ウォルト・ディズニー・アニメーション(ジャパン)の閉鎖を知らされた時、同代表の徳永元嘉氏は、才能溢れるスタッフの数々を無駄にすることを忍びないと感じた。同スタジオは、ディズニー・トーンと共に、「101ダルメシアン2」「ティガー・ムービー」「ピグレット・ムービー」そして近日公開の「ヘファランプ・ムービー」など数々の作品を制作してきたのだ。
そこで徳永は、解雇されたアニメーターとスタッフの大半を再集結し、銀行融資も受け、資本金600万円で今年6月、東京に新たなアニメーション・スタジオを開設した。その名は、「アンサー・スタジオ」。自分自身の内なる答えを追及する―という意味が込められている。
その第一号の仕事として、ディズニー・トゥーン・スタジオはメリー・ポピンズ40周年を記念して発売されるDVDのオリジナル・ショートの制作を、アンサー・スタジオに発注した(12月14日発売「The Cat That Looked at the King.」 監督 David Bosssert)。この2Dのショート作品は、P.L..トラヴァースの原作に基づくもので、声の出演は元ヨーク公爵夫人、サラ・ファーガソン、トレイシー・ウルマン、そしてデイビッド・オグデン・スティアーズ。
アンサー・スタジオはまた「アニメ」の影響を色濃く受けたトゥーン・ディズニーJetixの新TVシリーズ「スーパー・ロボット・モンキー・チーム・ハイパー・フォース・ゴー」の制作も行っている。
さらには、初の3Dプロジェクト「ネポス・ナポス」の制作中だ。この作品は、フルーツや野菜、花から生まれたキャラクターが住む世界を描く子供番組。VFXWorld は、アンサー・スタジオの徳永元嘉社長と、新スタジオ設立と2D,3Dの融合というビジネス・モデルについ話を聞いた。
Q :
独立スタジオを設立した経緯について聞かせて下さい。
徳永:
基本的にアーティスト側から声があがったのです。ディズニーが閉鎖を決めた時、私も非常に残念に感じました。そこで何とかして、再び一緒にやる方法がないかと模索しました。近年、アーティストたちはコンピューター・アニメーションに注目しています。ですから、コンピューター・アニメーションと、我々がディズニーで培ってきた2Dアニメーションを合体させるとビジネス・チャンスが広がるのではないかと思ったのです。 また、時期的にも恵まれていました。なぜなら現在、日本国内には、アニメーション制作の需要が沢山あるからです。配給側とコラボレーションすることも可能だと思います。ですから、ある意味タイミングは良かったのです。 ですが、当然ながら、ディズニー時代はお金の心配をする必要はありませんでしたが、現在はお金のことが頭痛の種になっています。
Q :
ディズニー(ジャパン)時代のスタッフの内、どの程度再雇用することができましたか?
徳永:
アニメーターに関しては、ディズニー(日本)時代は40人いましたが、現在35人再雇用しています。現在、我が社には100人近いスタッフがいます。
Q :
マネージメント・スタッフのうち、何人が残りましたか?
徳永:
ディズニー時代は従業員が101人いて、その多くがアンサー・スタジオに参加しました。ですから、構造的には非常に似ています。
Q :
メリー・ポピンズ The Cat That Looked at a King ショートについてお聞かせ下さい。
徳永:
今年8月に仕上げました。6分程の作品です。20人のアーティストが、3ヶ月かけて仕上げました。短いものですが、フィーチャー・レベルのクオリティを要求されました。制約が多い中、いい仕事をできたと思っています。これまでのディズニーのプロジェクトと同様、コンテとポスプロはLAで行われていますが、レイアウト以降の作業は日本で行われました。
Q :
ネポス・ナポスを制作するにいたった経緯を教えて下さい。
徳永:
アンサー・スタジオを設立した後、知的財産権ビジネスを展開しているOLC/Rights Entertainment(Japan)inc.から、3Dのテレビ・シリーズの制作の話しを持ちかけられました。それが、この「ネポス・ナポス」という子供向けのキャラクターのアニメーションです。
アンサー・スタジオを含めて4社(LA、台湾、日本のプロダクション)が参加したコンペで我々が勝ち、制作することになりました。ですから、現在は3Dアニメーションの領域にも拡大し、40人の新たなスタッフを雇用している最中です。最終的に全スタッフ合わせて130人になる予定です。
現在制作中で、今年の12月か来年の1月に放送が開始されます。
Q :
3Dにどのように対応していくプランですか?
徳永:
ツールはMayaを使っています。ディズニー時代は、3Dのキャラクター・デザインを行ったことはありませんでした。ですから、現在はトラディショナルのアニメーターたちにMayaを使えるようトレーニングしています。また、他社でアニメーション制作の経験のある人や、ゲーム・クリエーターなどで、それらのツールを使いこなせる人も募集しています。
Q :
難題はありますか?
徳永:
求人が大きな難題です。ディズニー時代は、求人広告を出せば、すぐに多くの反応がありました。しかし今「アンサー・スタジオ」といっても、誰も我々のバック・グラウンドを知りません。求人広告を出しても、それほど沢山の人は来ません。
Q :
アンサー・スタジオの特徴とは(他にない特徴)?
徳永:
我々は非常に特殊な存在であることを自負しています。
我々はディズニーのスタイルも知っていますし、日本のスタイル(低コスト・ハイクオリティ)も知っています。それが我々の強みだと思います。また3D(アニメ)に関しては、多くがゲーム・クリエーターの世界から来ましたが、我々はアニメーションからスタートしています。
我々は多くのアニメーション技術を3Dの分野に投入しています。これは他の誰もやっていないことであり、そのおかげでNepos Naposのコンペを勝つことができたのだと思います。
Q :
アンサースタジオの3Dの売りは?
徳永:
日本における3Dアニメーションは、主にゲーム用のアニメーションとして発展してきました。ですから、動きも規則的で繰り返しのアクションが多かったのです。ですから、ピクサーがつくるような3Dのアニメーションは無かったのです。ですが、ネポス・ナポスの場合、担当する3Dアニメーターたちの多くが、トラディショナル(2D)の経験を持ち、よく理解しています。
ですから、トラディショナルのスタイルを3Dの盛り込むことができるのです。
ネポス・ナポスは、日本でもこれだけのものを制作できることを知らしめる点において、日本の人々にとっては新しい体験になると思います。
Q :
どのようなマーケットを見込んでいますか?
徳永:
我々はまた始めたばかりなので、主に日本のマーケットを見据え、そこでビジネスができることを狙っています。前にも言いましたが、コンピューター・アニメーションは日本では成長しているマーケットなので、そこに力を注ぎたいと思います。
Q :
これ程3Dが注目されている時代に2Dを維持することは、難しいことですか?
徳永:
我々は日本の中で非常に恵まれた状況にあります。なぜなら日本では、2Dと3Dの人々は普通交わらないからです。ですが、ディズニーで2Dと3Dの融合を経験したことによって、それをどのように日本行えばいいか、学ぶことができました。2Dと3Dを融合させる環境も随分整ってきて、いい作品もつくれるようになってきたので、難しいことだとは感じません。むしろ、クオリティを向上する機会が増えたと感じています。
Q :
アンサー・スタジオを設立してよかったと思うことは?
徳永:
個人的には、自分たちで決められるようになったことが良かったと思います。
Q :
現在アメリカでは盛んに2D/3D議論が繰り広げられていますが?
徳永:
個人的には、2D/3Dが対立するものだとは思いません。単にこの数年、3D作品の話の方が、2D作品の話より面白かったというだと思います。2Dがなくなることはありません。2Dの課題は、よりよい作品をつくることだと思います。物づくりをする時には、自分の気持ちから、人生経験まですべて注ぎ込まないと、人を感動させることはできないと思います。我々はそのようなことをもっと考えなければならないでしょう。人が感動する所には、様々なビジネス・チャンスがあり、そこに多くの可能性が秘められていると思います。また、自分が死んだ後も残る作品の影響を考える必要もあると思います。自分が関わる作品には大きな責任を負わなくてはならないのです。
Q :
ディズニーのチャレンジについて一言?
徳永:
現在ディズニーで制作に関わっている人はあまり知りません。たとえば、最近亡くなったフランク・トーマス氏が遺した作品が物語っていると思います。今見ても彼の作品には感動させられますし、クリエイティブな面で、彼にまだまだ追いつけないと思っています。ですから、作品をよくするのは、すべてアーティストにかかっているのです。